密教について

「密教」は、大日如来が自らの覚りを楽しみながら説いた、深遠で絶対的な真理の教えと言われています。
秘密の教義と儀礼を師資相承によって伝持しようとする秘密仏教の総称で、儀礼的な加持祈祷を重んじているのが特徴です。
主に一人の師から一人の弟子へ口伝(くでん)によって伝授されてきたため、観念的で奥深く誰でも容易に理解できる内容ではありません。
顕教が「迷いを除く道を示す」ものであるのに対し、密教は「迷いが去った後の覚りの世界そのもの」を説いているのです。

日本の密教

密教は7世紀後半のインドで興り、唐を経て、平安初期に空海・最澄によって日本へ伝授されました。
空海(弘法大師)が伝えたものを東密(真言宗)、最澄(伝教大師)が伝えたものを台密(天台宗)と呼び、このふたつの宗派が日本の密教を代表するものとなっています。

六大四曼
◆六大
「地」「水」「火」「風」「空」「識」の六つの要素。森羅万象をあらしめている最も根源的な本体。
宇宙の根源であり、これらが融通無碍に組み合わされて大日如来となり、人間となり、周りの植物となり、全てが構成されている、という密教における宇宙観です。

  • 地・・・大地の生命
  • 水・・・潤い
  • 火・・・熱量
  • 風・・・呼吸
  • 空・・・永遠の命
  • 識・・・心の智慧
四曼
四種曼荼羅の事。宇宙の根源の六大の働きにより生起した仏の4つの世界。
三密行
「三密」とは「六大」「四曼」に関わる身・口・意の働きの事。
◆身密・・・身体の働き
◆口密・・・言語の働き
◆意密・・・心の働き
手で印を組み、口で真言を唱え、心に仏を念ずることで迷い・煩悩を断ち切る。
この3つの働きが一つとなり、本尊と一体となれれば、自己が完成して迷い・煩悩から離れる事が出来る→即身成仏

仏身論

仏の分類
大乗仏教では釈尊以外にも多くの仏が存在します。
釈迦の入滅を基準に、仏様も幾つかの役割に分類されました。
釈迦入滅後、仏の概念について様々な論議が交わされ仏身論へと発展していったのです。
過去七仏から始まり、56億7000万年後の未来に兜卒天から生まれ仏となって衆生を救うと言われる弥勒菩薩まで、また、大乗仏教になると現世十方の諸尊まで考えが拡大し、仏陀の本質が追求され続けました。
三世十方(仏身論)
◆三世仏・・・時間系列でとらえる仏の概念
「三世の諸仏」と言い、釈迦を基準に過去・現在・未来の三世を救うという概念から生じた

  • ・過去仏・・・釈迦入滅後、「仏教開祖である釈迦が最初の仏である」という人々、「釈迦にも教えを説かれた仏が異端い違いない」と主張する人々が現れ、釈迦以前の過去七仏と名付けられた。
    釈迦牟尼仏・迦葉仏・拘那含牟尼仏・拘留孫仏・毘舎浮仏・尸棄仏・毘婆尸仏、の七仏を過去七仏と呼ぶ。
  • ・現世仏・・・地蔵菩薩・観音菩薩
  • ・未来仏・・・弥勒菩薩のように五十六億7千万年後に衆生を救うため、この世に顕現すると言われる仏。未来を救う仏。

◆十方仏(空間でとらえる仏の概念)
東・西・南・北・東南・東北・西南・西北・上・下の事を「十方」と言い、各方角を守護する仏がいる。

種類
◆如来
修行を完成させた者としての諸仏の呼称
◆菩薩
悟りを求めて修行する者の呼称。自己のためだけでなく、悟りの真理を携え、世の為人の為に実践し、悟りの真理により現世の浄土化に務める者。
◆明王
「明」とは明呪・真言といった霊的な智力を意味し、力の特に秀でた神格者。教化し難い衆生を畏怖させて従わせるために、大日如来の命を受け、忿怒の姿を化現することにより悪を退治する諸尊。
◆天部
バラモン、ヒンドゥー教の神の多くが仏教に帰依して天部となり、仏教の守護神となった。ヒンドゥー教はバラモン教が民衆化したもの。

曼荼羅

曼荼羅とは?
仏教が興り、約五百年を経て仏像が作り出され、仏の集合体が描かれた。
日本における仏教の中で、密教の教えを真言宗として確立させた空海が中国から持ち帰ったものであり、密教の教え、その仏の持つ意味を示す図の事である。
「曼荼羅」とは梵語の音写で、「manda」は「真髄・本質・中心」の意味、「la」は「得る・所有する・成就」の意味を持ち、「本質を得る、本質を図示する」となる。
仏の本質を図示して描き出したものであるが、密教教主である大日如来の本質を分有し、全ての諸仏に行き渡り、それぞれの役割・誓願を持っている。

「秘密蔵は曼荼羅を以って体となす」・・・空海著「秘蔵記」より
「密教は幽玄にして翰墨に載せ難し。更に図面を仮って悟らざるに開示す」・・・空海著「請来目録」より

三種の曼荼羅
◆自性曼荼羅
「自性」とは本質を意味する言葉。不変なる真実そのものを意味する曼荼羅。
この曼荼羅は言葉や形で表されるものではなく、一切の存在の背後にある悟りそのものを指す。
◆観想曼荼羅
本尊と自己を一体化する瑜伽観法(五相成身観)の修行により、曼荼羅を心の中に建立していくこと。
◆形像曼荼羅
図画や尊像などが具体的に存在する曼荼羅。一般的な曼荼羅とはこの形像曼荼羅の事である。
四種曼荼羅
深密なる如来の悟りが表された自性曼荼羅を、大曼陀羅の世界を基準に「心(身)」「体(口)」「意(行為)」の三つの視点から見たもので、4つの形に分けたもの。
身・口・意の三密行が成就したとき大日如来と一体化し、大曼陀羅が完成する。

  • ・大曼陀羅
    「大」は大きいという意味ではなく、「六大」の意。宇宙全体の相を具象的に表現したもので、諸尊の形像で表す。
  • ・三昧耶曼荼羅
    諸尊の持つ刀剣・輪宝・金剛・蓮華等や両手で表す印契で描かれたもの。
  • ・法曼荼羅(曼荼羅曼荼羅)
    真理・真如の表現として本尊の曼荼羅(梵字)で描かれたもの。
  • ・羯磨曼荼羅
    「羯磨」とは梵語カルマの音写で「業」の意。宇宙の動きや人間の行為を指す。
    宇宙全ての動きという意から画像は大曼陀羅に接する。東寺講堂の彫刻群像に代表される立体的な曼荼羅。
内容で分類
◆両部曼荼羅
「金剛界曼荼羅」・・・金剛頂経の仏を元に描かれた曼荼羅
「胎蔵界曼荼羅」・・・大日経の仏を元に描かれた曼荼羅
◆別尊曼荼羅
一尊が中心となって別に形成された曼荼羅

  1. 仏部曼荼羅
  2. 仏頂曼荼羅
  3. 経法曼荼羅
  4. 菩薩曼荼羅
  5. 観音曼荼羅
  6. 明王曼荼羅
  7. 天部別曼荼羅
三輪身説
日本の密教で金剛界曼荼羅の中に描かれた諸尊をその性格に応じて分類する概念。「輪」とは全体(輪)を形成するための要素という意味。

  • ・自性輪身
    仏そのもの。真理の当体。仏が本地自性の仏体で教化している。
  • ・正法輪身
    曼荼羅現の本旨として真理は衆生救済であるため、真理の内容を説くために仏が「菩薩」に顕現した姿。菩薩は正法を説いて衆生を救済している。
  • ・教令輪身
    曼荼羅現の本旨として真理は衆生救済であるため、真理の内容を説くために仏が「明王」に顕現した姿。教法に従わない衆生を教令に従って忿怒の形相で強制的に教化する。

密教教主

釈迦如来
二身論の概念がなく、三身論では生身・応身としての概念を持つ。「顕教」の教主。
大日如来
二身論においては生身(人間としての存在)と、法身の概念がある。法身とは入滅後も真理の教えは不変である事から、釈迦の説いた法を不滅の身である「法身」と呼んだ。「密教」の教主。
三身説
大乗仏教で説かれる釈迦の身体。

  • ・法身
    森羅万象の真理が神格化され、宇宙自体が仏とみなされた。宇宙そのものが仏であるので、衆生に語りかけることのない沈黙の仏とされる。
    神秘的な言葉で語りかけるとされ、真理の教え自体の難しさを以って「如来秘密」と呼ばれる。人間は本来その真理を知る智慧を備えているが、煩悩のために見極めることが出来ないとされ、弘法大師はそれを「衆生秘密」と説いた→大日如来(毘慮舎(遮)那仏)
  • ・報身
    誓願を立てて修行し、その果報として仏になったもの→阿弥陀如来・薬師如来等
  • ・応身
    人間に化身して現れ、衆生を救う仏→釈迦如来

密教経典

仏教には八万四千もの法門があると言われているが、現在様々な宗派によっても所依の経典は異なる。宗祖の悟りの成就により選ばれたお経であり、また、釈迦の教えだけでなく後の編集時に書かれた経である。
五部の秘経
  • 大日経・第七巻・・・・・(善無畏三蔵訳)
  • 金剛頂経・第三巻・・・・・(不空三蔵訳)
  • 要略念誦経・第一巻・・・・・(金剛智三蔵訳)
  • 蘇悉地経・第三巻・・・・・(善無畏三蔵訳)
  • 瑜伽経・第一巻・・・・・(金剛智三蔵訳)
両部の経典
◆大日経・・・真理の本質の見極め

  1. 「一切智智(仏の最高の悟り)とは何か?」という質問に対し「悟りとはありのままに自らの心を知ること(如実知自心)」と説いている。人間の心の動きを160心に分析してそれらの段階を追って説明している。
  2. 「どのようにしたら一切智智を得ることが出来るか?」という質問に対し「菩提心を因と為し、大悲を根と為し、方便を究竟と為す」と説く。いわゆる「三句の法門」と呼ばれ、悟りとはそれを求めて努力する決意(菩提心)をもち、すべてのものを救済しようとする慈悲の心(大悲)を根本とし、自分の為だけでなく世の為人の為に尽くすこと(方便)が究極の目的と説く。
  3. 「六無畏」を説く。一切の衆生は密教の観行を行ずれば苦界から解き放されるとして、その道課を六種にわけて説いたものである。
  4. 「十縁生句」を説き、われわれとの縁生の姿は多様であると説く。「十縁生句」観法の方法を十種の実相の縁生として説いている。
  5. 曼荼羅建立の造壇法・択地、方位の定め方・曼荼羅、灌頂、護摩、印、真言など真言密教における重要な行法が説かれている。

◆金剛頂経・・・真理の実践的な把握

  • 通達菩提心・・・・・自己の心に通達し、心を清浄化すること
  • 修菩提心・・・・・悟りを求める心を金剛のように堅くすること
  • 成金剛心・・・・・堅固不動な菩薩の心を体得すること
  • 証金剛心・・・・・堅固不動な菩薩の心を得たと感得すること
  • 仏身円満・・・・・自己の内に円満なる仏を成すこと・自ら仏になること

上記の五段階に分けた瞑想法で、本尊の仏身を修行者の上に円成せしめるという金剛頂経独自の観法→「五相成身観」